廣嶋雑記

広島のあれこれ

江の川沿いをドライブ

広島県と島根県を流れる江の川(ごうのかわ、可愛川(えのかわ))は中国地方最大の川で、源流は広島県山県郡北広島町と島根県邑智郡邑南町との県境の阿佐山南麓、河口は島根県江津市です。
中国山地の南麓から北東方向へ三次市まで大きく迂回し、さらに北西へ曲がり、北麓の江津市から日本海へ流れていきます。
司馬遼太郎が「街道をゆく」の芸備の道で取り上げているように阿佐山から江津市まで直線距離だと約30km、車では1時間弱しかかかりませんが、なんと江の川は全長が194kmもあって、車だと3時間はかかります。
広島市の水道は太田川水系で、その太田川の全長は103km、ほぼ倍近い距離です。
江の川と太田川は同じ北広島町に源流がありながら、南北逆方向へ流れ、長さまで倍近く違う対称的な川なのです。

f:id:akakoif:20190802231408j:image
江の川は北広島町の阿佐山の源流から標高の低い南側の瀬戸内海方向へすんなり流れていくわけではなく、文字通り紆余曲折の末、北側の日本海に注いでいます。
一見すると阿佐山を北側へちょこっと回り込んで流れれば、チャチャッと河口に辿り着きそうです。
実際、北広島町の源流から江津市まで、道路のルートは何本かありますが、せいぜい50kmほどの距離です。
それが何の因果か延々200㎞近く、4倍にもなる距離を遠回りしていることになります。
人間に例えると方向音痴のせいで散々道に迷い、遠回りした挙句ようやく出発地からほど近い目的地に到着した、というところでしょうか。

何度も道に迷った経験があるので、身につまされます。
広島県では西高東低になっている中国山地の地形に翻弄されている川、という印象で、地図で見ると江の川の流れは源流の北辺りで繋がりそうです。
中国山地を南から北へ横断しているのも、不思議な点の一つです。

川が、それ自体の源流の侵食によって近くにあった別の川と流れが一体化し、元の川筋が消滅するという、典型的な河川争奪なのだそうです。


そもそも江の川の漢字からして江も川も、どちらも川という意味ですし。
流域が広いことや流れる方向が何度も変わるため1本の川という認識になりにくいのか、三次市までは可愛川、そこから先は江の川など、地域によって呼称が違うのも特徴です。
知れば知るほどこんがらがり、疑問符が増えていきます。

f:id:akakoif:20190802231441j:image
広島市役所から国道54号を県北の三次市へ向かう途中に安芸高田市の上根峠がありますが、ここが分水嶺で江の川の支流である簸ノ川(ひのかわ)の源流が国道沿いにあります。
峠の登り口の右手に流れている川である根の谷川と、峠を越えた先の右手に流れている簸ノ川は道路沿いを流れているため同じ川だと錯覚してしまいますが、源流が異なる別々の川です。
上根峠の海抜は281mで、南へ4km下った峠口である広島市安佐北区大林の海抜は約110mと高低差が大きく、感覚的に川は広島市に下るのかと思いますが、簸ノ川は南西ではなく逆の北東方向へ流れています。
一方、根の谷川の方は、すんなり南へ下って太田川と合流します。
源流は同じ北広島町ながら根の谷川は、江の川の源流(大谷川の上流)と30km以上離れているので、河川争奪を免れて広島市方向へ流れているようです。

f:id:akakoif:20190802231532j:image
分水嶺の北東8kmほどの場所にあり、桜の木が6千本もあって毎年花見客で賑わう土師ダムは江の川の流域で、水力発電後の水の一部を太田川水系の根の谷川へトンネルで分水し、広島市などへ供給しています。
広島市が大きく発展した今となっては、充分な給水を阻む上根峠の分水嶺がネックのようです。

f:id:akakoif:20190803195141j:image
土師ダムの北東2km先で江の川と分水嶺から発する簸ノ川が合流して国道54号沿いに北東方向の三次市まで蛇行しながら流れ、馬洗川、西城川と合流し、さらに西北方向に大きく曲がって2018年3月に廃線となった旧三江線沿いを江津市まで流れていきます。
流域がほぼ平坦なので何度も大きく蛇行し、かつ山あいを縫いながら流れていることから、このルートになるようで、川沿いの道路のアップダウンは少ないものの旧三江線沿いはカーブが多いです。

f:id:akakoif:20190802231558j:image

上の赤い巴橋は西城川と馬洗川の合流点にかかっています。

Yの字の左の\が西城川、右の/が馬洗川、下のIが江の川です。

このIの部分は実際には西城川と馬洗川が1本になり、緩く蛇行する江の川に合流するまでの、ごく短い部分です。

f:id:akakoif:20190802231609j:image

左手が西城川、右奥が馬洗川で、写真には写っていませんが、この右手に巴橋があります。

司馬遼太郎が、江の川がY字になっている、と述べた少し奥に、もう一つ、このY字型になっている合流点があるのです。


三次市中心部で大きな二本の川と合流する他、中にはダムがあるような規模の川と何度も合流して水量が多く、かつ川幅も広いことから、道路や鉄道が整備されるまで物流には舟が使われていたそうです。
現在は山の急斜面や何ヶ所もあるダムを利用した水力発電所があちこちにあります。

f:id:akakoif:20190803195904j:image

上の写真は江の川ダムですが、ダムとはいっても取水堰です。

安芸高田市吉田町付近では猛暑ですっかり水嵩が減り、川床が半ば草原のような状態になっているのとは対称的に満々と水を湛えています。

猛暑だと、かえって山間部では上昇気流が発生して夕立などが降りやすく支流の水量が減ることがないため、江の川が干上がることはないようです。

夏場でも水量が多いためか、大正時代からの再生可能エネルギーによるエコロジカルな水力発電所が今なお稼働しています。

f:id:akakoif:20190803194813j:image

今回のドライブは広島県安芸高田市の上根峠から三次市を経て島根県邑南町までのルートでしたが、阿佐山の麓に源流がある、江の川の支流の大谷川から大回りの三次市経由で江津市まで走破する意欲のある方は是非、チャレンジしてみてください。
ただし網の目のように道路が張り巡らされているため、道順を間違えると意図せずして近道になり、いきなり江津市の河口に着いてしまって結果的にはズルをしたことになりかねないのでご注意を。
そんな時には江の川の源流を見てから、水族館のアクアスに行きたかったけえ、と言っておきましょう。
アクアスは江津駅から10kmほどしか離れていませんから、不可解な川の源流とアクアスの場所が近かったから、ついでに見物してみた、と言えば納得してもらえるかもしれません。

プライバシーポリシー お問合せ